2016年4月1日金曜日

ものに沿わせてつくる:クラシックカーのハンドルカバー

「車のハンドルに革を巻いてほしい」というオーダーがありました。

聞くところによると、お客様はとある田舎の納屋に眠っていたクラシックカーを買い取って、大がかりなメンテナンスをしているところであるそうな。
様々なパーツを交換していく中、表面の樹脂の剥げてしまった古びたハンドルを、新品に取り替えてしまうことはたやすいが、せっかくなので一工夫して革ハンドルにしたら格好いいんじゃないか……、といった経緯からのご注文でした。


<製作過程>

◆1:パターン製作
クラシックカーのハンドルはとてもスリムでした。
この雰囲気を失いたくない、ハンドル裏のグリップのデコボコもちゃんと感じられるようにしたい、とのことでしたので、薄手の革でキツめに締め上げて、きっちり仕立てることにしました。
 


きっちりのやり方も色々あると思いますが、今回はデザインテープを使用し、靴のパターン製作の応用を試みました。木型に巻き付ける要領でピッタリ巻いて、デザイン線やアタリを書き込んだら、ハンドルを傷つけないように注意してはがし、それを元にエンヤーコラとパターンを起こします。


◆2:試作
実際に使用する革と同じもので、組み立ててみます。

裏の凹凸もきれいに出ましたね。こんな感じで今回は大体オッケーでした。気になった箇所のパターンに微調整を加え、本番に入ります。ここでどれだけ完璧に近づけたと思っても、革の部位や状態で誤差が生まれてしまうのが革製品の難しいところであります。


◆3:裁断、漉(す)き
 本番用の革を裁断した後、パーツ同士のきれいな縫合のために、縫合部を漉(す)いて薄くします。縫ってから漉いた部分を折り返して、もとの革の厚みに戻れば成功です。写真では1mm程度漉き幅が広く出てしまいました(白く色が変わっている箇所です)が、許容範囲だと判断し、先へ進みます。
そう、このことがあんな悲劇を起こすとは、このとき誰も予想だに……いやいやいやないです悲劇。NO! 悲劇。悲劇ダメ・絶対。


◆4:手縫いの穴あけ
念のため、組み立てたもので一周の距離が合うかどうか確認します。だいぶ縫ってから発覚して激しく後悔し人知れずむせび泣く未来を回避&朗らかにGO!

縫合する甲側と乙側、両方を重ねながら菱目打ちなどで穴をあけていきます。
穴の数が甲と乙とで合わないと、最後の方まで縫ってから発覚してこの世のハンドルというハンドル全てへの呪詛で塗り込められた魂がオロロンと声なき声を発しつつ天の川銀河から3,000パーセク四方をきりもみ回転で云々

ちなみに、クラシックカーはこんな感じの外見だそうです。とてもすてきです。


◆5:縫製
手縫いで縫製します。今回は車体に合わせた色の糸をご注文いただきました。

まずは全体の位置決めの要となるT字パーツから。補強のために、パーツの縫合部をまたいだ場所からスタートしました。

縫いあがりのズレが心配なので、上下同時に縫い進めます。
キツく縫いたい時は、指サックを使用しています。

T字パーツを左右両側縫い合わせたら、ハンドル中央パーツです。距離があるので、やたらと長い糸になりました。必然的に、縫い方も靴の底付けの出し縫い、すくい縫いのように、糸を左右同時に手を伸ばして、羽ばたくようにシューっと引くやり方になりました。縫っている本人は大真面目ですが、割と滑稽な動きかもしれません。

長い方が終わりました。途中からグローブを装着しました。これならば指を痛めずに革だろうが悪代官だろうが目一杯締められます。しかし誠に残念ながら今回の仕事には三味線も中条きよしも登場いたしません。いや残念です。

長かった手縫いも残りわずかです。ズレやシワが生じないか、注意して進めます。


◆6:仕上げ
縫い終わりました!


心配していた寸法のズレもなく、凹凸もきれいに出ました。
手縫い糸によるグリップの違和感を少しでも解消するため、縫製部分をハンマーできっちり叩いて、完成です。

縫いあがり当日に、無事納品となりました。
見た目にはご満足いただけたようでよかったです。後は、実際に取り付け、車が完成し、運転してみてからのフィードバックを待つところであります。

「おい小僧、それなら〇〇に革を巻いたアレンジができないか?」
そんなご相談、宵闇に紛れて人知れずお待ちしております。

(石川)